コラム
公開日:2022/03/02
更新日:2022/03/02

相続についてのお尋ねとは|内容・届く基準・無視してはいけないか等解説

ご家族が亡くなり、葬儀が終了してしばらくすると税務署から「相続についてのお尋ね」という書類が届くことがあります。突然税務署から届く書類ですので、驚かれたり、不安を感じたりするのではないでしょうか。

ただ「相続についてのお尋ね」が届いたからといって相続税申告が必ずしも必要になるとは限りません。しかし、何も考えずに放っておくと不利益を被ることもあります。

「相続についてのお尋ね」がどのような趣旨で送付されているのか、誰にいつどの時期に届くのか、来ない・届かない場合はどうなっているのか、またどのような対応をすればよいのかを理解し、安心して相続手続きを行えるようにしましょう。

1.相続税についての質問状「相続についてのお尋ね」とは?

「相続についてのお尋ね」とは、言い換えると「相続“税”についてのお尋ね」です。送付された封筒の中には、「相続税の申告要否検討表」が入っており、必要事項を記入して税務署に返送します。

例えば、相続人は何人いるのか、どのような遺産があるのか、死亡保険金をいくら受け取ったのかなどを記載します。記載した内容によって、相続税申告が必要になるのかどうかの簡易チェックを行うことが可能です。

なお「相続についてのお尋ね」は亡くなった全ての方の家族に届くのではなく「一定の財産がある人が亡くなった場合」に税務署から届きます。

■国税庁HP「相続についてのお尋ねの書き方」
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/topics/check/h26/pdf/05.pdf

2.なぜ税務署は相続の発生と財産の内容を知っているのか

税務署は相続について次のような情報を持っていると考えられます。

2-1.地方自治体から送られてくる死亡の情報

家族が亡くなると、死亡したことを知った日から7日以内に死亡届を地方自治体に提出しますが、死亡届を受理した地方自治体では、戸籍法と相続税法の関係により死亡の情報を税務署に送ることになっています。

そのため税務署は死亡の情報を知ることになります。

2-2.過去の所得の情報

当然ながら税務署は確定申告の情報を持っています。なお、亡くなった人が会社員などの給与所得者の場合には確定申告が必要ありませんが、年収500万円以上の方の源泉徴収票は税務署に提出されますので、一定額以上の給与所得者に関する情報も持っています。亡くなった人の所得情報を遡ることで、税務署は死亡時の財産を推測すること可能です。

2-3.証券会社の有価証券の情報

証券会社の特定口座で管理されている上場株式等の情報である「特定口座年間取引報告書」は、証券会社から税務署へ提出されています。この報告書により、税務署は亡くなった人が保有していた有価証券の情報を得ることができます。

2-4.金融機関の預金口座の情報

税務署は、職権により亡くなった方の預金口座の内容や残高を金融機関に照会することが可能です。

2-5.不動産の情報

税務署は、死亡した人が保有している土地や建物などの不動産の情報を地方自治体から得ることができます。

2-6.財産債務調書の情報

確定申告において所得合計が2,000万円を超え、かつ、一定の財産規模を超える場合には財産債務調書の提出が義務付けられています。

2-7.前回の相続税申告書の情報

両親や配偶者などの相続が既に終わっており、相続税申告を行っている場合は、その相続の記録が税務署に残っています。

税務署はこれらの情報をもとに、亡くなった人がどれくらいの財産を保有していたのかを把握することができます。そのうえで、相続税申告が必要と思われる人の家族に対して「相続についてのお尋ね」を送付しているのです。

3.「相続についてのお尋ね」が届いた際の対応

3-1.いつ届くか?時期について

「相続についてのお尋ね」は、税務署が亡くなった人の財産を把握して送付を行うため、亡くなってからある程度の期間が過ぎて送られてきます。

通常は亡くなってから6~8か月の間に送付されてくることが多いようです。

ただ先述したとおり「相続についてのお尋ね」が届いたからと言って、必ずしも相続税申告が必要になるわけではありませんので、過度に心配する必要はありません。お尋ねが届いた場合は、次のような対応を行うといいでしょう。

3-2.対応1:原則、無視しない方が良い

「相続についてのお尋ね」への回答は強制されるものではないため、無視しても罰則があるわけではありません。

しかし、税務署は財産の情報を把握し、相続税申告が見込まれると判断してお尋ねを送ってきています。既に被相続人の財産の評価額を計算し、財産の総額が基礎控除額以下であるため相続税が発生しないことがわかっている場合は、相続税申告の有無を検討したことをアピールするためにも「相続についてのお尋ね」への回答を行った方がいいでしょう。お尋ねへの回答を行うことで、税務署から疑念を持たれることが少なくなります。

3-3.対応2:既に税理士に依頼している際は回答の必要なし

税務署から「相続についてのお尋ね」が届くのは亡くなってから6~8か月後になります。相続税申告は財産の評価に時間がかかるため、書類が届くころには既に税理士に依頼し、相続税申告の準備をしているのではないでしょうか。この場合、相続税申告書を税務署に提出することになるため、お尋ねに回答する必要はありません。

3-4.対応3:虚偽の回答はバレる

税務署は、ある程度の財産の情報を把握し、相続税申告が見込まれる人に「相続についてのお尋ね」を送付しています。そのため、虚偽の回答をしてもすぐにバレてしまいますので、正しい内容を記載して提出しましょう。虚偽の内容を記載したからといって罰則規定はありませんが、後に税務調査に発展してしまい、ペナルティを受ける可能性があります。

4.「相続についてのお尋ね」を無視してもペナルティはないが…

「相続についてのお尋ね」自体に何らかの法的拘束力があるわけではないため、無視して放置していてもペナルティが科されるわけではありません。しかし「面倒だから無視する」「書き方が分からないから無視する」など、安易な気持ちで放っておくと次のようなリスクに繋がります。

4-1.税務調査のリスク

お尋ねを無視し、相続税申告の義務があるのに申告しなかった場合は「税務調査」に発展するおそれがあります。国税庁では「無申告者の洗い出し」に力を入れており、マイナンバー制度の普及とともに財産情報の把握が徹底されることになるでしょう。相続税の無申告が判明すると、自宅などでの税務調査が行われます。この税務調査を拒否することはできません。

無申告者の税務調査では、特例や控除が使えなくなる可能性があります。特例や控除には「申告期限までに相続税申告書を提出すること」や「遺産分割協議が終わっていること」が要件になっているものがあります。税務調査で財産が確定してしまうと、これらの特例や控除が使えなくなってしまう可能性があります。

4-2.罰金のリスク

相続税申告の提出期限は相続が発生してから10か月以内です。この期限を超えた場合は「無申告加算税」や「延滞税」が科されることになります。また、税務調査で悪質だと認定されると重いペナルティである「重加算税」が科され、大変重い税負担を強いられることでしょう。

5.「相続についてのお尋ね」が届かない場合の対応

税務署は亡くなった全ての人の財産を把握しているわけではありません。そのため、中には「相続についてのお尋ね」が送られてこない場合もあります。

お尋ねが送られてこない場合であっても「お尋ねが来ない・届かない=相続税申告が必要ない」ではありませんので、相続税申告が必要かどうかわからない場合は税理士に相談することをおすすめします。

「相続税申告は必要ない」と自分で判断してしまうと、本来なら遺産分割協議を行い期限内に申告することで受けられる小規模宅地等の特例などの特例や控除を受けられなくなってしまうこともあります。

6.「相続についてのお尋ね」が届いても慌てないためには対策が重要

「相続についてのお尋ね」は相続が発生してからある程度の期間が経ってから届きます。相続税申告の期限は相続開始から10か月になりますので、仮に相続が発生して8か月後にお尋ねが届き、相続税申告が必要だと判明した場合は、たった2か月で相続税申告書を作成しなければなりません。

相続税申告書を作成するには、戸籍による相続人の確定から相続財産の評価、相続人同士の遺産分割協議と多くのステップがあり、短期間で相続税申告書を作成することは簡単なことではありません。「相続についてのお尋ね」が届いてから慌てて申告手続きを開始するようなことにならないためには生前からの対策が重要です。

生前に財産リストを作成し、相続税申告が必要かどうかの判断を行っておけば、お尋ねが届いても慌てる必要はありません。また、生前に相続税申告が必要なことがわかっていれば納税資金を確保しておくなど、相続人が困らないようにすることが可能です。不安のない円満な相続にするためには、正しい生前対策が必要不可欠ですので、ぜひ税理士にご相談ください。

7. まとめ

突然、税務署から「相続についてのお尋ね」が届くと驚いてしまうかもしれませんが、正しい内容で回答するか、または申告期限までに相続税申告を行えば問題ありません。お尋ねの書き方がわからない場合や、お尋ねを回答するために財産を確認して相続税申告が必要だと判明した場合は、早めに税理士にご相談されることをおすすめします。