コラム
公開日:2023/04/25
更新日:2023/10/25

代償分割と税金|相続税・譲渡所得税・贈与税は発生するか?

相続財産の分割方法の中には、特定の相続人が不動産などの財産を相続する代わりに他の相続人へ金銭などを支払い、相続財産額の調整を行う「代償分割」という方法があります。

代償分割は一般的な分割方法である現物分割と異なり、相続税以外にも「譲渡所得税」や「贈与税」が課税されるケースがあります。

ここでは、代償分割を行った場合の税金の課税関係について詳しく解説します。

1.代償分割における相続税

代償分割は、不動産などの価値の高い財産を相続した相続した人が、低価値な財産を相続した人に金銭などを支払い、財産の差額を埋める分割方法です。

代償分割を行ったとしても、相続財産自体には何も影響を与えないため、相続税の「総額」は変わりません。

ただし、代償金の額によって「各相続人が負担する相続税額」は変わるので注意が必要です。

なぜなら、以下の通り、相続税の総額を各相続人の課税価格によって按分し、各相続人の相続税額を計算するためです。

・代償金を支払った相続人の課税価格
課税価格=相続税評価額-代償金額

・代償金を受け取った相続人の課税価格
課税価格=相続税評価額+代償金額

1-1.代償分割の対象が不動産の場合

代償分割により相続する財産が不動産であった場合、代償金の決め方によって計算方法が異なります。

代償金の算定方法として一般的なのは、「不動産の時価(実勢価格)」を基準にすることです。

ただし、この場合、不動産の「相続税評価額」よりも高くなってしまうため、各相続人の課税価格の算定には次のような調整が必要となります。

・代償金を支払った相続人の課税価格
課税価格=相続税評価額-代償金額×(相続税評価額÷代償分割時の時価)

・代償金を受け取った相続人の課税価格
課税価格=相続税評価額+代償金額×(相続税評価額÷代償分割時の時価)

1-2.代償分割がある場合の課税価格の計算例

代償分割がある場合の課税価格の計算は、代償金の算定を「相続税評価額」により計算したのか、それとも「時価」により計算したのかによって異なります。

以下のケースの計算例を見てみましょう。

相続人:長男、次男の2人
代償分割の対象財産:土地(相続税評価額8,000万円、時価1億円)
長男が土地を相続し、次男へ代償金を支払う
※便宜上、他に財産がないものとして計算

1-2-1.代償金を「相続評価額」により算出した場合

長男が次男に支払う代償金を相続税評価額である8,000万円を基準に算出し、4,000万円を次男に支払った場合

・長男の課税価格
土地の相続税評価額8,000万円-代償金額4,000万円=課税価格4,000万円

・次男の課税価格
代償金額4,000万円=課税価格4,000万円

1-2-2.代償金を「時価」により算出した場合

長男が次男に支払う代償金を時価である1億円を基準に算出し、4,000万円を次男に支払った場合

・長男の課税価格
相続税評価額8,000万円-代償金額4,000万円×(相続税評価額8,000万円÷代償分割時の時価1億円)=4,800万円

・次男の課税価格
代償金額4,000万円×(相続税評価額8,000万円÷代償分割時の時価1億円)=3,200万円

2.代償分割における譲渡所得税が発生するケース

譲渡所得とは、土地や建物、株式などの資産を譲渡した際に得られた利益のことを指し、この譲渡所得には所得税が課税されます。

代償分割では、代償金を現金ではなく不動産などで代償することができますが、その不動産の時価が取得費よりも高い場合には、譲渡所得が発生します。

2-1.代償分割での譲渡所得の計算方法

現金以外の財産で代償分割を行った場合には、次の計算方法により譲渡所得を計算します。

相続人:長男、次男
代償分割の対象財産:土地(相続税評価額8,000万円、時価1億万円)
代償金の支払い:長男が土地を相続し、次男へ長男が保有しているマンション(取得費4,000万円、時価5,000万円、取得後8年経過)を代償する

上記の例では、長男が次男に代償するマンションの時価が取得費よりも上回っているため、長男に譲渡所得が発生します。

・譲渡所得の金額
マンションの時価5,000万円-取得費4,000万円=1,000万円

・所得税の額
譲渡所得1,000万円×税率20.315%※(長期譲渡所得の税率、住民税5%を含む)=2,031,500円

※所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得が適用され税率が39.63%になります。

現金以外での代償を行う場合、時価を把握する必要があります。時価の考え方については、税の専門家である税理士に相談をするのが良いでしょう。

2-2.代償分割で取得した不動産の取得費には代償金は含まない

代償分割で取得した不動産の取得費には支払った代償金は含みません。

例えば、父が亡くなり、長男が土地を相続し、次男に代償金を5,000万円支払ったケースで、その後に相続した土地を売却したケースを考えてみましょう。

長男は次男に代償金を支払っているため、売却した土地の取得費に代償金を含めて譲渡所得の計算を行うように思えますが、代償金は取得費に含めることはできません。

なぜならば、代償金の支払いは債権債務の相殺が目的であり、不動産を取得するためのものではないためです。

このケースの取得費は、生前に父が土地を購入した金額と付随する費用が取得費になります。

3.代償分割で発生する税金について留意すべきポイント

代償分割では、相続税と譲渡所得税以外にも発生する可能性がある税金があります。

3-1.贈与税

代償金の支払いは債権債務の相殺であり贈与ではないため、原則的に贈与税は発生しません。ただし、次のような場合は贈与税が課税される可能性がありますので注意しましょう。

3-1-1.遺産分割協議書に「代償分割」と書かれていない

相続人全員で協議し、その決議事項を記した「遺産分割協議書」に代償分割を行うことが書かれていなければ贈与になってしまいます。

例えば、遺産分割協議書に「相続人Aが下記不動産を相続する」とだけしか書かれていない場合は危険です。その後に相続人Aが他の相続人に代償分割として現金を支払った場合、代償分割なのか贈与なのか判別することができず、税務調査があると贈与と判断されてしまうでしょう。

遺産分割協議書には「遺産を取得する代償として、○○に対し、金○○円を支払う」のように記載し、代償分割であることを明確にしましょう。

3-1-2.相続した財産より代償金が多い場合

代償金の金額は、相続人の間で取り決められますが、相続した財産より代償金が多い場合には贈与と認定され、贈与税が課税されます。

長男が時価1,000万円の土地を相続し、次男に代償金を1,500万円支払うケースでは、土地の時価を代償金が500万円上回っているため、その部分については贈与と判断されます。

3-2.不動産取得税

不動産取得税とは、不動産を購入した場合や贈与により取得した場合に発生する税金です。

「相続」により不動産を取得する場合にはかかりません。

ただし、代償分割で現金ではなく不動産で代償する場合には不動産取得税が発生するので注意が必要です。

例えば、長男が次男にマンションを代償した場合などに不動産取得税がかかります。

代償による不動産の移転は、相続が原因による取得にあたらないためです。

3-3.登録免許税

登録免許税は、不動産を登記する際に課税される税金です。

相続により不動産を取得し、相続登記を行う際には、不動産評価額に0.4%を乗じた額が登録免許税になります。

代償分割で現金ではなく不動産で代償する場合には、登記原因が「相続」ではなく、遺産分割による「贈与」になるため注意が必要です。

登記原因が遺産分割による贈与の場合、不動産評価額に2%を乗じた額が、登録免許税になります。

4. まとめ

相続財産に不動産がある遺産分割は、全ての相続人で公平に分けることは非常に難しいです。

しかし、代償金を支払う代償分割を行うことで公平に財産を分けることが可能になり、相続トラブルを回避することができます。

代償分割には、時価の把握などの専門的な知識が必要になりますので、検討する際はぜひ税理士にご相談ください。

当事務所でも、税理士・弁護士・社労士・司法書士・不動産鑑定士・FP等と連携し、一つの窓口で相続に関する全てをサポートさせて頂いております。お気軽にご相談ください。