コラム
公開日:2022/03/02
更新日:2022/03/02

相続放棄が認められない事例はあるか?失敗しないための対処法を解説

「両親が亡くなったが、多額の借金を抱えていたことが発覚した」など、相続人になりたくない時に絶大な効果を発揮するのが「相続放棄」です。

しかし、相続放棄は絶大な効果がある一方で、よく理解して行わなければ相続放棄ができない・認められない状態になるケースがあります。

相続放棄が無効になる状況に、陥ってしまわないよう、ここでは相続放棄が認められない失敗例、相続放棄の対策・注意点を紹介します。

1.相続放棄を行う主な目的

相続放棄とは、裁判所へ申し立てることにより「亡くなった人の一切の財産を相続する権利を放棄する」ことです。どういった場面で相続放棄は利用されるかまず再確認しておきましょう。

1-1.借金を引き継がないようにするため

相続放棄すると一切の財産を相続する権利を放棄することになります。一切の財産には、プラスの財産以外に借金などのマイナスの財産も含まれ、相続放棄を行うことで両親や親族の作った借金などの負債を放棄することができます。亡くなった方の借金を放棄できることが相続放棄の一番のメリットです。

借金には、金融機関からの借金以外にも住宅ローンやクレジットカードの残債、家賃や税金の滞納額などが含まれます。亡くなった方にこれらのマイナスの財産がある場合は、相続放棄を検討するといいでしょう。

1-2.相続に関わりたくない

疎遠の親族の相続人になった場合や他の相続人同士で激しい相続争いが発生している場合など「これ以上相続に関わりたくない」という状況であれば、相続放棄は1つの方法です。相続放棄すれば相続争いに巻き込まれることがなくなります。

1-3.特定の相続人に財産を集中させるため

相続放棄は、相続財産を特定の相続人1人に集中させるために利用されることもあります。例えば、相続人である会社の後継者に会社の株式や会社に貸している敷地などを全て相続させたい場合は、他の相続人が相続放棄を行います。相続放棄を行わず、遺産分割協議で特定の相続人1人が財産を相続することも決められますが、借金などのマイナスの財産は遺産分割協議のみで帰属先を決めることができませんので、相続放棄を行った方が低リスクです。

2.相続放棄が認められない3つの事例

上記のような目的のために相続放棄を検討する方が多いのですが、相続放棄が認められない事例もあります。具体的な失敗例を見ていきましょう。

2-1.ケース1:既に相続したと認められる場合(法定単純承認の成立)

相続放棄を行うためには「法定単純承認事由」に該当していないことが条件になります。

法定単純承認事由の1つには「相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき」という条件があり、一番問題になることが多い項目です。これは「既に相続財産の一部を処分してしまった場合は、単純承認したとみなされるため、相続放棄ができなくなる」という意味になります。

例えば、父が亡くなった、相続人である長男のケースを考えてみましょう。

父の死後、父の借金100万円を返済した後に相続放棄をしようとすることがありますが、これは長男が借金返済するための100万円をどこから捻出してきたかによって異なります。

もし、父が残した預金から100万円引き出して借金を返済した場合であれば、預金という父の財産を処分してしまっているため単純承認したとみなされて相続放棄を行うことはできません。こういった失敗例は多くあります。

一方、長男が自分の預金を原資にして借金100万円を返済していた場合は、相続財産の一部を処分していませんので単純承認にはならず、相続放棄を行うことが可能です。

つまり、単純承認は金額の大小によって判断されるものではありません。

例え1万円の請求であっても、相続財産の中から支払いを行ってしまうと相続放棄ができなくなってしまうことがあります。そのせいで多額の借金を相続しなければならいない状況に陥ってしまうケースもよくありますので、相続放棄前の債務の支払いには十分に注意しましょう。

2-2.ケース2:期間が過ぎて相続放棄できない場合

相続放棄には期間(熟慮期間)が設定されています。熟慮期間とは、相続の開始があったことを知った時から「3か月以内」です。

この期間内に家庭裁判所に対する申述を行わなければ、原則的に相続放棄はできません。ただし、相続財産の調査に時間がかかってしまっている場合など、状況によって既に3か月を経過している場合であっても相続放棄が認められるケースがありますので、自分で判断せずに専門家へ相談することをお勧めします。

2-3.ケース3:書類に不備がある場合

当然ながら、裁判所に提出した書類に不備がある場合は相続放棄が認められません。書類に不備がある場合は、何の書類が足りないのかを確認し、追加で提出を行うことができます。自信がない場合は専門家へ相談しましょう。

3.相続放棄するためには事前対策が重要

人が亡くなることで発生する相続を事前に対策することは不謹慎だと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、相続が発生すると葬儀などに加えて相続手続きを行わなければならないため、段取りが重要です。特に、相続放棄については3か月という短い期限が設定されていますので、最低でも次の項目を検討しましょう。

3-1.相続財産の調査

相続放棄するためには、どのような相続財産があるのかをよく調査する必要があります。「亡くなった父から借金が多いと聞いている」などの思い込みだけで相続放棄を行わずにしっかりと確証を得て相続放棄を行いましょう。

しっかり相続財産調査をしてみると、借金より財産の方が多いことが判明し、相続放棄をしなくてもよくなったというケースもあります。

3-2.専門家への早めの相談

相続放棄の期限は3か月です。この短い期間に相続財産の調査、相続放棄を行うかどうかの判断、相続の放棄の申述を行う必要がります。特に財産調査には時間がかかり、家族とはいえ人の財産を調査することは簡単ではありませんので、財産調査に困った際は相続経験が豊富な税理士などの専門家に任せるといいでしょう。できれば、期限が限られていますので相続が発生する前から専門家に相談し、早めに対処できるように心がけましょう。

4.相続放棄以外の方法も検討しましょう

相続放棄は、亡くなった両親や家族に借金がある場合に有効な方法ですが、借金=相続放棄に直結するわけではありません。相続放棄はあくまでも選択肢の1つであり、他の選択肢についても検討する余地があります。相続放棄以外の方法を見ていきましょう。

4-1.事実上の相続放棄

事実上の相続放棄とは、相続人全員での遺産分割協議で「私は遺産を一切受け取りません」と提案し、他の相続人全員がその提案に合意することで成立します。通常の相続放棄と異なり、裁判所の介入がないため、法的な拘束力は強くはありませんが、手続きが簡単で期限の定めがない点が特徴です。事実上の相続放棄は、遺産分割協議による相続人同士の決定によるものであり、借金の債権者へ対抗できるものではありません。つまり、事実上の相続放棄を行ったからと言って借金の返済義務を免れるわけではないのです。財産を相続したくないという時には有効な方法ですが、借金の返済を免れたい場合には効果がありません。

4-2.限定承認

相続には、相続放棄に代わる方法として「限定承認」という方法があります。限定承認とは「相続する財産の価値の範囲内で負債を相続する方法」です。財産の価値に見合う借金を背負ってでも相続したい財産がある場合に有効です。例えば、財産に代々から引き継がれている実家があり、その実家の価値以上に借金がある場合で、実家を次の世代に引き継いでいきたい場合などに限定承認が利用されます。

限定承認は、相続放棄と同様に3か月以内に裁判所に申し立てが必要になります。また、相続人全員で申し立てを行う必要があるため、相続人同士の仲がよくない場合には利用が難しくなることが考えられます。しかし、手放したくない財産を守る有効な方法ですので、相続放棄を検討される場合には限定承認も視野に入れておくといいでしょう。

5. まとめ

借金などの債務を相続したくない時や相続トラブルに関わりたくない時などに相続放棄は有効な手段です。

しかし、下準備をしっかりせずに相続放棄を行ってしまうと、相続放棄が認められないケース・できない状況に陥ってしまうことも考えられます。相続放棄は対策が重要です。専門家に相談したうえで「相続放棄を行った方がよいのか」「他にいい方法はないのか」など、十分に検討しましょう。