コラム
公開日:2023/07/20
更新日:2023/10/25

1人が全て相続する遺産分割協議書の書き方|ひな形や注意点を解説

遺産を1人の相続人が全て相続する場合でも、他に相続人がいれば遺産分割協議書を作成する必要があります。

本記事では、1人が全ての遺産を相続する場合における遺産分割協議書について、書式・書き方・ひな形、相続税に関する注意点などを解説します。

1. 1人が全て相続する場合でも、他に相続人がいれば遺産分割協議書が必要

亡くなった被相続人の遺産を、1人の相続人が全て相続するとしても「他に相続人がいる場合」は、以下の理由から遺産分割協議書を作成する必要があります。

①合意に基づく分割であることを明確化する

相続人全員で話し合い、「1人が全ての遺産を相続する」旨の合意をしたことを遺産分割協議書によって明確化し、後日の紛争を防止します。

②遺産分割協議書の提出を要する相続手続きに備える

不動産の相続登記や預貯金の相続手続きなどを行う際、相続人が複数の場合は遺産分割協議書の添付が必要となります。

これに対して、

相続人が1人しかいない場合や、遺言書による相続の場合には、遺産分割協議書の作成は不要です。

  • <遺産分割協議書の作成が不要な場合の例>
  • 最初から相続人が1人しかいない場合
  • 他の相続人が死亡、相続欠格、相続廃除、相続放棄によって相続権を失った結果、相続人が1人になった場合
  • 遺言書によって、1人の相続人が全ての遺産を相続すべきものと指定された場合

2. 1人が全て相続する場合の遺産分割協議書の書き方

相続人1人だけが全ての遺産を相続する場合における、遺産分割協議書の書き方(作成方法)を解説します。

2-1. 事前準備

まずは事前準備として、以下の対応を行いましょう。

①相続人の調査・確定

遺産分割協議書には、相続人全員が署名・押印を行う必要があります。戸籍全部事項証明書などを取り寄せて、相続権を有する相続人全員を確定しましょう。

②相続財産の調査

1人で全ての遺産を相続することが決まっている場合には、厳密に相続財産を確定する必要はありません。しかし遺産分割の完了後、スムーズに遺産を活用するためには、できる限り相続財産を網羅的に把握しておくべきです。

被相続人から生前に聞いていた情報や、遺品に含まれる資料などを参考にして、相続財産の調査を行いましょう。

③相続人全員の印鑑証明書の取得

特に不動産の相続登記や預貯金の相続手続きなど、遺産分割協議書の提出を要する相続手続きを控える場合には、相続人全員が印鑑登録された実印を押さなければなりません。

印鑑の間違いを防ぎつつ、後の相続手続きに備えるためにも、押印前の段階で相続人全員の印鑑証明書を取得しておきましょう。印鑑証明書は住所地の市区町村役場で取得できるほか、マイナンバーカードがあればコンビニでも取得できることがあります。

2-2. 遺産分割協議書に記載すべき事項

1人で全ての遺産を相続する場合、遺産分割協議書の記載内容はシンプルになります。具体的には、以下の事項を記載しておけば足りるでしょう。

①表題(タイトル)

「遺産分割協議書」と記載します。

②被相続人の表示

亡くなった方(被相続人)の氏名・生年月日・死亡日・本籍地・最後の住所地を記載して、誰の相続に関する遺産分割協議書であるかを明確化します。

③相続人全員が合意した旨

遺産分割協議書記載の内容について、全ての相続人が合意した旨を明記します。

④相続の方法

1人で全ての遺産を相続する旨を明記します。

⑤可分債務の取り扱い

金銭債務などの可分債務については、遺産分割の対象とならず、法定相続分に従って、相続人間で法律上当然に分割されると解するのが最高裁判例の立場です(最高裁昭和34年6月19日判決)。
したがって、相続人全員の合意により、1人の相続人に全ての遺産を相続させると決めても、他の相続人が相続債権者から可分債務の弁済を請求された場合は、自身の法定相続分に応じた金額を弁済しなければなりません。

しかし、1人で全ての遺産を相続するケースでは、相続債務についても遺産を取得する相続人に全て負担させるのが一般的です。この場合は遺産分割協議書において、可分債務の負担者と弁済時の精算方法を明記しておきましょう。

⑥清算条項

後日の紛争を予防するため、相続人間において、遺産について一切の債権債務関係がないことを明記します。

⑦署名欄

遺産分割協議書の作成日と、相続人の住所・氏名を記載し、すべての相続人が実印を押印します。
住所は印字しても構いませんが、氏名については自署しましょう。

2-3. 1人がすべて相続する遺産分割協議書のひな形

1人の相続人がすべての遺産を相続する場合に利用できる、遺産分割協議書のひな形を紹介します。

遺産分割協議書

被相続人の表示

氏名 ○○ ○○
生年月日 ○年○月○日出生
死亡日 ○年○月○日死亡
本籍地 ○○○○
最後の住所地 ○○○○

上記被相続人の相続につき、相続人X、相続人Y・・・(以下個別にまたは総称して「相続人」という。)は、次のとおり遺産分割を行うことに合意する。

第1条(相続の方法)
相続人Xは、被相続人が死亡時に有した財産および債務(以下「遺産」と総称する。)につき、本書作成時点において判明しているか否かを問わず、その一切を相続する。

第2条(可分債務の取り扱い)
1. 相続人(相続人Xを除く。)が、被相続人が生前負っていた可分債務につき、被相続人の債権者から弁済を請求された場合、相続人Xは、請求を受けた相続人の求めに応じ、当該相続人に代わって当該可分債務を弁済しなければならない。
2. 相続人(相続人Xを除く。)が、被相続人の債権者に対して、被相続人が生前負っていた可分債務を弁済した場合、当該弁済の価額につき、相続人△△に対して求償できるものとする。

第3条(清算条項)
本書の当事者は、遺産について、本書に定めるもののほか、当事者間に何らの債権債務関係がないことを確認する。

以上、本書成立の証として本書〇通を作成し、相続人全員が署名押印のうえ、各自1通を保管する。

〇年〇月〇日

【住所】
相続人【氏名】 印

【住所】
相続人【氏名】 印

……

3. 1人が全て相続する遺産分割時の注意点

1人の相続人に全て相続させる場合は、特に以下の2点にご注意ください。

3-1. 相続放棄を検討する場合、相続権の移動に要注意

遺産分割協議書によって合意するのではなく、相続放棄によって相続権を1人に集中させようとするケースが時々見られます。

たしかに相続放棄をした人は、遺産を相続する権利を失います(民法939条)。遺産を相続する人以外の全員が相続放棄をすれば、相続人が1人となり、遺産分割協議書の作成が不要となるため便利に思われるかもしれません。

しかし相続放棄をした場合は、後順位の相続人に相続権が移動する点に注意が必要です。

たとえば被相続人の子全員が相続放棄をした場合、被相続人の直系尊属→被相続人の兄弟姉妹と相続権が移ります。被相続人のすでに兄弟姉妹が亡くなっていても、その子(被相続人の甥・姪)がいれば、代襲相続によって相続権を取得します。

相続権の移動が発生すると、新たに相続権を取得した者が単独相続に反対し、当初の意図に反した結果になりかねません。
このような事態を防ぐため、相続権の移動が発生し得る場合は相続放棄を控え、遺産分割協議書に基づいて単独相続の合意をしましょう。

3-2. 相続税・配偶者の税額の軽減・二次相続について

相続税の軽減効果が非常に大きい特例として知られるのが、「配偶者の税額の軽減」です。被相続人の配偶者が相続する遺産等については、1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか高い金額まで非課税となります。

配偶者の税額の軽減を最大限活用するために、被相続人の配偶者が全ての遺産を相続するというケースも少なくありません。

しかし、子どもや孫の世代に多くの財産を残すという観点からは、被相続人の配偶者が全ての遺産を相続することは得策でない場合があります。

将来的に被相続人の配偶者が亡くなった際に、課される相続税が増えてしまうからです。

相続税の軽減を図るためには、亡くなった被相続人の相続に加えて、将来的な配偶者の相続(二次相続)についても考慮した上で、総合的なシミュレーションを行う必要があります。

4. まとめ

今回は1人が全ての遺産を相続する場合における遺産分割協議書について、書式・書き方・ひな形、相続税に関する注意点などを解説しました。

遺産相続や相続税などについては、法律の専門家にご相談ください。

当事務所でも、税理士・弁護士・社労士・司法書士・不動産鑑定士・FP等と連携し、一つの窓口で相続に関する全てをサポートさせて頂いております。お気軽にご相談ください。