コラム
公開日:2021/06/28
更新日:2021/06/28

貸地や貸家建付地の相続税評価額の算定方法とポイント・注意点

相続税の評価を行う上で不動産の評価はとても重要です。なぜなら、相続財産の中に土地や不動産が占める割合は他の財産の割合よりも高く、令和元年の統計では約4割にも上ります。

今回は、貸地や貸家にする「資産の組み換え」という生前対策を行うことで相続税を大きく下げる方法、相続税評価額の算式、小規模宅地等の特例との関係などについて解説致します。

なお、不動産の生前贈与や相続後の土地の売却については、下記の記事が詳しいので併せてご参照ください。

不動産の生前贈与はしたほうが良い?|土地の贈与税計算や税金を解説

相続した土地の売却に伴う税金はいくら?確定申告は必ず必要?

1.賃貸物件の相続税評価額の算定方法

相続税の申告で土地や建物の評価を行う際には、一定の基準により相続税評価額を算出することになります。相続税申告で使われる評価方法には、主に次の3つがあります。

  • ①財産評価基本通達による評価
  • ②不動産鑑定士による鑑定評価
  • ③売却金額による評価

基本的には①の財産評価基本通達の方法により計算することになります(*財産評価基本通達で計算した評価額が時価と大きく乖離している場合などは除く)。

財産評価基本通達では、貸地や貸家などの賃貸物件の評価方法を次のように規定します。

1-1.「貸地」の評価方法

「貸地」「借地権」とは

後述する計算式の理解をスムーズにするためにも、基本的な用語を再確認しておきましょう。

まず「貸地」とは、所有している土地を貸しており、その土地の上に借主が自己の建物を建設している土地のことを言います。

この場合、借主所有の建物が貸している土地にあるため、自由に利用することができません。反対に、借主は建物を建てているため、土地を利用する権利を得ることになります。この借主の権利を「借地権」と言います。

貸地の相続税評価を行う場合は、借主の権利である「借地権」を通常の評価額から差し引いて計算することになるため、貸地は通常の土地よりも相続税評価額が低くなります。

「貸地」の相続税評価額の算式と具体例

貸地の相続税評価額の計算式は以下の通りです(*「借地権割合」は、国税庁のホームページの「路線価図・評価倍率表」で確認することができます)

貸地の相続税評価額=土地の評価額-(土地の評価額×借地権割合)

上式を利用して、具体的に計算してみましょう。例えば、土地の評価額が5,000万円の貸地の相続税評価額を考えてみましょう。借地権割合は60%とします。

土地の評価額5,000万円-(5,000万円×借地権割合60%)=「2,000万円」

以上のように、貸地の相続税評価額は2,000万円となります。

1-2.「貸家建付地」の評価方法

「貸家建付地」「賃貸割合」とは

貸家建付地 (かしやたてつけち)とは、土地と建物を同じ人が所有しており、建物を第三者に貸している場合の土地のことを言います。

建物についても土地の所有者のものである点が貸地とは異なります。貸家建付地では、借主の権利はあるものの貸地よりはその権利は低くなります。

また、貸家建付地の相続税評価額の算式では「賃貸割合」を差し引いて計算することになります。

賃貸割合とは、アパートなどの集合住宅において貸している部分と貸していない部分(空き室)の割合になります。満室の場合を100%として計算し、貸している部分÷全体の室数で求めます(厳密には部屋の床面積で計算します)。

例えば、床面積が同じ全10室のアパートで8室を貸している場合は、8室÷10室となり賃貸割合は80%になります。

「貸家建付地」の相続税評価額の算式と具体例

次の算式により相続税評価額を計算します(※「借家権割合」は一律30%です。「借地権割合」は地域によって異なります)

貸家建付地の相続税評価額=土地の評価額-(土地の評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

上式を利用して、具体的に計算してみましょう。例えば、土地の評価額が5,000万円の貸家建付地の相続税評価額を考えてみましょう。借地権割合は60%、賃貸割合100%とします。

土地の評価額5,000万円-(5,000万円×借地権割合60%×借家権割合30%×賃貸割合100%)=「4,100万円」

以上のように、貸家建付地の相続税評価額は4,100万円となります。

1-3.「貸家」の評価方法|建物

「貸家」「借家権」とは

貸家とは、第三者に貸している建物のことを言います。一般的には貸家建付地に建っている建物で、借家人が入居している必要があります。

貸家では、借家人に建物を借りている権利が発生します。この権利を「借家権」と言い、上述の通り、借家権割合は全国一律30%と規定されています。

貸家の相続税評価を行う場合は、通常の建物の評価から借家権割合を差し引きます。

「貸家」の相続税評価額の算式と具体例

貸家の相続税評価額=固定資産税評価額-(固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合)

上式を利用して、具体的に計算してみましょう。例えば、建物の固定資産税評価額が5,000万円の貸家の相続税評価額を考えてみましょう。賃貸割合は80%とします。

建物の固定資産税評価額5,000万円-(5,000万円×借家権割合30%×賃貸割合80%)=「3,800万円」

以上のように、貸家の相続税評価額は3,800万円となります。

2.賃貸物件を建てると節税対策になるか

アパートやマンションなどの賃貸物件を建設して貸し出すことで、相続税額を少なく抑えられるケースはあります。

2-1.資産の組み換えでどれだけ評価額を下げることができるか

保有している資産を別の種類の資産に換えることを「資産の組み換え」と呼びます。

例えば、1億5,000万円の土地を購入し、1億円のアパート、マンションを建設した場合を考えてみましょう。

土地の相続税評価額は貸家建付地により評価され、アパート、マンションについては貸家として評価されます。

①貸家建付地の相続税評価額

土地の評価額は、実際に購入した金額(実勢価格)よりも2割ほど低くなると言われています。土地の評価方式には「路線価方式」と「倍率方式」があるため、どの評価方式で計算されるかによって低くなる割合が異なります。ここでは2割低くなったと仮定して計算します。

また、借地権割合は60%、賃貸割合100%で計算します。

・土地の評価額:1億5,000万円×(1-20%)=1億2,000万円

・1億2,000万円-(1億2,000万円×借地権割合60%×借家権割合30%×賃貸割合100%)=9,840万円

②貸家の相続税評価額

建物の固定資産税評価額は、実際に購入した金額(実勢価格)よりも3割から5割ほど低くなると言われています。建物に使用されている建材によって低くなる割合が異なります。ここでは、3割低くなったと仮定して計算します。

賃貸割合は100%で計算します。

・建物の固定資産税評価額:1億円×(1-30%)=7,000万円

・7,000万円-(7,000万円×借家権割合30%×賃貸割合100%)=4,900万円

結果的に、土地と建物の相続税評価額の合計額は1億4,740万円となります。

賃貸用の土地と建物を取得するために必要な2億5,000万円の金融資産の組み換えを行うことで、1億円以上の相続税評価額を下げることになりました。

割合で言うと、実に約4割減少したことになります。相続税対策としては高い効果を得ることができると言えるでしょう。

2-2.収益性低下のリスクには注意

賃貸物件への資産の組み換えは、元手となる多額の資金が必要です。

資金が手元にない場合は、金融機関からの融資を受けて、土地建物を取得することになりますが、その場合、次のようなリスクが考えられます。

賃貸物件を取得して貸し出すということは、不動産事業を営むということです。そのため、しっかりと計画を立てて事業を行わなければ収益性が低下し、資金が足りなくなる可能性があります。

せっかく取得した賃貸物件の入居率が下がってしまい、空き部屋がうまらなくなっていき、借金の返済が滞ってしまう最悪のケースも考えられます。

また、こういった収益性の低い物件は、借金返済のために売却しようと思っても買い手が付きにくく、売却できても安値での売却になり、最終的には借金だけが残ってしまうケースもあります。相続対策で行った資産の組み換えにより多額の借金を背負ってしまうリスクもありますので、賃貸物件の収益性を十分に検討して取り組む必要があります。

3.賃貸物件での2つの節税ポイント

賃貸物件への資産の組み換えによる節税対策を行う際は、次のポイントに気を付けましょう。

3-1.ポイント①小規模宅地等の特例の利用を忘れずに

相続税では、一定の土地の相続税評価額を大きく減額することができる「小規模宅地等の特例」があります。

小規模宅地等の特例は、賃貸用の貸家建付地にも適用することが可能です。

最大で200㎡の面積までを50%減額することが可能です。

ただし、この特例を受けるためには、被相続人の相続人が相続税の申告期限までに賃貸事業を引き継ぎ、その貸家建付地を申告期限まで継続して保有していなければなりません。他に相続財産に自宅の土地がある場合は、その土地で特例を受けた方が有利になる場合もありますので、どの土地で小規模宅地等の特例を受けるのかの判断は専門家に相談することをおすすめします。

小規模宅地等の特例の計算例・ポイント等をわかりやすく解説

3-2.ポイント②金融機関からの借入れは債務になる

金融機関からの借入れにより賃貸物件を取得し、返済が完了する前に相続が発生した場合、借入金残高は相続税の計算では債務となり財産から控除することができます。

財産から差し引けるため、相続税を少なくすることはできますが、計画的に行わなければ資金ショートにより相続税の納税資金が足りなくなってしまう可能性がありますので、十分な検討が必要です。

4.まとめ

今回は、貸地や貸家建付地の相続税評価額の計算方法、また相続税対策のポイントについてご紹介しました。

財産に金融資産を多く保有している場合や、金融機関からの借入れにより賃貸物件を取得することで相続税評価額を大幅に下げ、相続税対策を行うことが可能です。

ただし、賃貸物件を建てる地域の収益性などを詳しく調べて検討し、計画を立てて実行しなければ資金が不足するリスクがあります。資産の組み換えを行う場合は、一人で考えて行動せずに専門家にご依頼ください。

なお当事務所「鯨井会計」では、茨城県つくば市を中心として、相続対策の立案・実行支援サービスを実施しております。

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