コラム
公開日:2022/06/01
更新日:2022/06/01

遺言書の種類と効力|効力の期間や知っておくべきことを解説

遺言書にはどんな内容を記載しても基本的に問題ありませんが、法的な効力が発生する「法定遺言事項」は限られています。

ここでは「遺言の種類と違い」「どのような遺言書の内容が法的な効力を持つのか?」「効力はいつまで続くのか?」を中心にご紹介します。

1. 遺言の種類と違い

遺言書には、死亡の危急が迫っており遺言書を作成できない場合に証人が書面にする「特別方式遺言」と通常の遺言である「普通方式遺言」の二種類があります。一般的に行う遺言は普通方式遺言であり、普通方式遺言には次の3種類があります。

1-1.自筆証書遺言

「自筆」で作成する遺言書のことを自筆証書遺言と言います。

紙とペン、印鑑さえあれば簡単に作成することができ、費用がかからないため多くの人が利用する遺言方法です。自筆証書遺言は手軽に行える反面、以下のような可能性・リスクもあります。

  • 死亡後に発見されない
  • 故意に隠蔽される
  • 日付や署名が記載されておらず無効になる
  • 裁判所での検認手続きが必要になる

ただし、令和2年より開始した自筆証書遺言を法務局に持ち込み、保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」を利用することで、これらのデメリットの多くを解消することができます。

詳しくは下記コラムも併せてご参照ください。

自筆証書遺言の書き方・ポイント・注意点【2020年版】

1-2.公正証書遺言

公正証書遺言とは「公証人が公正証書として作成」する遺言書です。

公正証書として作成することで「公文書」として取り扱われますので、安全性と確実性の高い遺言書と言えます。

下記のようなメリットがあります。

  • 私文書である自筆証書遺言と比べて高い証拠力
  • 公正証書遺言は公証役場で保管されますので紛失の心配なし

ただし、公証人へ支払う費用は発生はします。

1-3.秘密証書遺言

上記2つ以外にも「秘密証書遺言」があります。

遺言書の内容を誰にも知られたくない場合に作成する遺言です。2人の証人と共に公証役場で手続きを行います。

公証人も2人の証人も「遺言書が存在すること」を確認するだけで、遺言書の内容を確認することはありません。

そのため、下記のようなリスクが考えられます。

  • 公証人などの専門家が内容のチェックを行わないため、法的効力のない遺言書になるおそれあり
  • 例えば、日付や署名が記載されておらず遺言書自体が無効になるおそれあり

2.遺言の効力が生じる「法定遺言事項」

どの遺言方法であっても、遺言書の内容が全て法的拘束力を持つわけではありません。遺言書に記載することで法的拘束力が発生する事項を「法定遺言事項」と言い、その範囲は民法などで定められています。主な法的遺言事項には次のようなものがあります。

2-1. 「相続分」の指定

民法によって「法定相続分」が定められています。

ただ、法定相続分によらない相続分(指定相続分)を遺言書で指定することも可能です。

例えば、法定相続人が子3人の場合、法定相続分はそれぞれ1/3ずつと定まっています。

しかし、遺言書に指定相続分を記載することで長男に1/2、残りの子2人に1/4ずつなど、法定相続分と異なる相続分を指定することが可能です。

また、遺言書に記載することで「指定相続分を決める人を選任」することもできます。

2-2.「遺産分割方法」の指定

遺言書では、遺産を分割する際の「方法を指定」することが可能です。

遺産分割には主に下記のような方法があります。

  • 通常の遺産分割方法である「現物分割」
  • 相続する代わりに他の相続人へ対価を支払う「代償分割」
  • 相続財産を売却し、売却額を分割する「換価分割」

ただし、実務上では、相続人の話し合いにより、遺言書とは異なる遺産分割方法を行うことも可能だと考えられています。

2-3.「遺贈」に関する事項

相続では法定相続人のみが財産を相続できます。

ただ、遺言書に「土地○○は××に遺贈する」と記載することで「相続人以外の人」へ財産を渡すことも可能です。

2-4.「特別受益」の持ち戻し免除

特別受益とは、特定の相続人が被相続人から「生前贈与」などで受け取っている利益のことを言います。

特定の相続人だけが受け取るこのような利益は、遺産分割を行う上で公平とは言えません。

そのため、特定の人が受け取った利益を加味して具体的な相続分を計算することを行います。

これを「特別受益の持ち戻し」と言い、遺言書でこの特別受益の持ち戻しの免除を記載することができます。

公平な相続とは相反してしまいますが、被相続人の想いを尊重するために設けられている制度です。

2-5. 遺産分割の禁止

被相続人が「相続開始後すぐに遺産分割を行うと争いになってしまう」などの理由で、遺産分割をしてほしくない場合には、遺言書に記載することにより「遺産分割を禁止」することができます。

禁止すると言っても永遠に禁止するわけではなく、相続開始日(亡くなった日)より最大で5年間の遺産分割禁止になります。5年を超えて禁止すると遺言書に記載したとしても、5年間のみ認められます。

2-6.相続人廃除

遺言書で特定の相続人を廃除する旨を記載することで相続人廃除が行えます。

ただし、財産を遺したくないという理由だけでは廃除することはできません。被相続人に対する虐待や重大な侮辱がある場合やその他の著しい非行がある場合に限り認められます。

2-7.非嫡出子の認知

婚姻関係にない間に生まれた子(非摘出子)を遺言書によって認知する「遺言認知」は法律上認められています。

2-8.遺言執行者の指定、指定の委託

遺言書で遺言執行人を指定することができます。遺言執行人とは、遺言書の内容を実行するために必要な手続きを行う権限を与えられた人のことを言います。

遺言執行人には、未成年と破産者を除いて、指定されれば誰でもなることが可能です。

また、遺言書により第三者に遺言執行人の指名を委託することもできます。

2-9.未成年後見人の指定

未成年者に代わって財産管理や法律行為を行える未成年後見人を遺言書で指定することができます。

遺言書により未成年後見人が選任された場合、10日以内に市役所などに届け出が必要になります。

2-10.遺言の撤回

新たな遺言書を作成することにより、一度作成した遺言書を撤回することができます。遺言を撤回するためには、新しい遺言書に前の遺言を撤回する旨を記載する方法と手元の遺言書を破棄する方法があります。

ただし、公正証書遺言の場合は手元の遺言書を破棄しても公証役場に原本が保管されていますので、破棄による撤回はできません。

3.遺言書の効力が生じる期間

3-1.遺言書の効力はいつから生じるか

遺言書の効力はいつから生じるかと言うと、基本的には「遺言者が亡くなった時点」から発生します。

ただし「停止条件」がある遺言書の場合は、その条件が遺言者の死亡後に満たしたときに遺言書の効力が発生します。

3-2.遺言書の効力はいつまで続くか

遺言者が亡くなった後の遺言書の効力はいつまで続くかと言うと、時効はなく、いつまでもその効力を保ったままになります。

例えば、4年前に発生した相続で遺産分割が終わっていない相続であっても、遺言書の効力になんら影響はありません。

4.遺言書の効力について知っておくべきこと

4-1.開封しても効力は消滅しない

自筆証書遺言を勝手に開封してしまうと法律違反になります。遺言書を見つけたらすべての相続人に連絡し「裁判所の検認」で開封しなければ5万円以下の罰金が課されてしまいます。

開封したからと言ってその遺言書が無効になるわけではありませんが、遺言書は勝手に開封しないようにしましょう。

4-2.遺言書でも遺留分は侵害できない

遺留分とは相続人に認められている最低限の財産を相続する権利です。この権利は遺言書よりも優先されるため、遺留分の範囲内において遺留分侵害額請求を行うことができます。

ただし、遺留分を侵害しているからと言って遺言書自体が無効になることはありません。

4-3.有効な遺言書を遺すには遺言能力が必要

遺言書を作成する時点で遺言者に「遺言能力」がなければ法的な効力が認められません。遺言能力がある人とは「満15歳以上」かつ「遺言を書いた時に判断能力を有する人」と定められています。

認知症などが発症している場合の遺言書は、遺言の内容や医療記録などから、遺言者の意思能力の有無を総合的に判断することになります。

5.まとめ

今回は遺言の種類とその効力と期間、注意点などを解説致しました。

遺言書の書き方を誤ってしまうと無効になる可能性があるので注意が必要です。

遺言書の作成に不安がある場合には専門家に相談することが最適です。ぜひ一度ご相談ください。