コラム
公開日:2021/08/05
更新日:2021/08/05

準確定申告とは|必要な場合、提出期限、申告しないとどうなるか

大切なご家族が亡くなった場合、必要になる手続きの一つが所得税の「準確定申告」です。ここでは、準確定申告が必要な人・不要な人と提出期限、延長は可能か、また準確定申告についての注意点についてご紹介します。

また、相続により事業を引き継ぐ方は「青色申告承認申請書」の提出忘れに注意が必要です。こちらについても併せて解説します。

1.亡くなった人の所得税の確定申告が「準確定申告」

「確定申告は知っているけど、準確定申告って何だろう?」と思われる方も少なくないのではないでしょうか。準確定申告とは「亡くなった人の所得税の確定申告」のことを言います。当然のことながら、亡くなった本人が準確定申告を行うことができませんので、亡くなった方の「相続人全員」で手続きを行います。

1-1.確定申告と異なる点

準確定申告は、いくつかの点が確定申告とは異なります。

①申告期限が異なる

確定申告の場合は、1月1日から12月31日までの所得を計算し、翌年2月16日から3月15日までの期間に申告書の提出を行います。

一方、準確定申告の場合は1月1日から亡くなった日までの所得を計算し、相続が発生した日(亡くなった日)の翌日から「4か月以内」に、申告書の提出を行います。

②申告義務者

確定申告の申告義務者は本人ですが、準確定申告の申告義務者は亡くなった人の「法定相続人全員」になります。

③提出場所

確定申告書の提出場所は、本人の住所地を管轄する税務署になります。一方、準確定申告書の提出場所は「亡くなった人の住所地を管轄する税務署」が提出場所です。相続人の住所地を管轄する税務署ではありませんので注意が必要です。

④人的控除や所得控除など

確定申告では、配偶者控除や扶養控除などの人的控除の判定は12月31日時点で判定しますが、準確定申告の場合は亡くなった日時点で判定を行います。

また、準確定申告では、生命保険料や社会保険料などの所得控除の対象となる費用は亡くなった日までに支払ったもののみが対象です。

2.準確定申告が必要なケースは?

準確定申告については、①準確定申告が必要なケース、②準確定申告は必要ないが申告することで還付が受けられるケース、③準確定申告が必要ないケースの3つに分けられます。

2-1.準確定申告が必要な人・ケース

準確定申告は基本的に確定申告と準ずるものため、準確定申告が必要となる条件についても「確定申告と同様」になります

会社が年末調整を行って所得税の精算をしている場合、準確定申告を行う必要はありません。ただし、次の場合には、準確定申告が必要になります。

  • 事業所得や不動産所得がある方
  • 2,000万円を超える給与収入がある方
  • 2カ所以上から給料をもらっている方
  • 給与所得・退職所得以外に20万円以上を超える所得がある方
  • 不動産の売却や生命保険の満期の受け取りがある方
  • 公的年金等による収入が400万円を超えた場合
  • 公的年金による雑所得以外の所得金額が20万円を超えた場合
  • など

詳しくは国税庁のサイトをご参考ください。

■参考記事

確定申告が必要な方|国税庁

 

2-2.②準確定申告は必要ないが申告することで還付が受けられるケース

準確定申告をする必要はありませんが、準確定申告を行うことで多く徴収されている源泉所得税の還付を受けられる場合があります。準確定申告で「還付」を受けることができる代表的なケースは次の3つです。

・年末調整が行われていない場合

亡くなった方の勤務先で年末調整が行われていない場合で、給料の源泉徴収額が過大になっている場合は、準確定申告を行うことで所得税の還付を受けられる可能性があります。

・医療費が多くかかっていた場合

生前に入院などで医療費が多くかかっていた場合は、準確定申告で「医療費控除」を受けることにより所得税が還付される場合があります。ただし、準確定申告で医療費控除が受けられる医療費は亡くなる日までに支払った医療費のみが該当します。亡くなった後に支払った医療費については対象外です。(支払った相続人が亡くなった人と生計を一にしている場合は、相続人の確定申告で医療費控除を受けることが可能です)

・配偶者控除や扶養控除、寄付金控除を受ける場合

亡くなった人の勤務先で行われた年末調整に追加で配偶者控除や扶養控除を受ける場合や生前に寄付金控除になる寄付を行っていた場合には、準確定申告を行うことで所得税が還付される場合があります。

2-3.③準確定申告が不要な人・ケース

①の準確定申告が必要なケースに該当せず、所得税の還付も期待できない場合は、準確定申告の必要はありません。

準確定申告が必要ない主なケースは次のとおりです。

  • 1か所からの給料をもらっており、既に年末調整がされている場合
  • 年間400万円以下の年金を受給しており、その他の所得が20万円以下の場合

3.申告期限は亡くなってから4か月以内

準確定申告の提出期限は「相続の開始(被相続人の死亡)を知った日の翌日から4か月以内」と定められています。一般的には「相続開始を知った日=被相続人の死亡日」として考えられますので、その場合は亡くなってから4か月以内と考えて問題ありません。

例えば、7月15日に亡くなった場合の準確定申告書の提出期限は11月15日になります。

3-1.準確定申告書の提出期限が3月15日を過ぎる場合

準確定申告書の提出期限は、相続開始日によっては確定申告の提出期限を過ぎてしまう場合があります。令和3年12月10日に相続が発生した場合はどうでしょうか。この場合の準確定申告書の提出期限は4か月後の令和4年4月10日になり、一般的な確定申告の提出期限である令和4年3月15日を過ぎてしまいます。

このような場合であっても、準確定申告書の提出期限が優先されますので令和4年4月10日が提出期限になります。

3-2.準確定申告が2回必要になる場合がある

確定申告書の提出を行う前に亡くなった場合は、準確定申告が2回必要になるケースがあります。例えば、令和4年2月10日に相続が発生した場合はどうでしょうか。この場合は、令和3年1月1日から12月31日までの所得と令和4年1月1日から2月10日までの所得を準確定申告で行わなければなりません。つまり、準確定申告書が2つ必要になります。この2つの準確定申告書の提出期限はどちらも亡くなってから4か月以内となり、令和4年6月10日となります。

3-3.準確定申告の期限の延長について

準確定申告書の提出期限の延長は原則的に認められていません。

(*なお「令和3年2月2日から同年4月15日」までの間に期限が到来する死亡による準確定申告については、通常の確定申告と同様に新型コロナウイルス感染症による期間延長は認められていました。)

4.準確定申告をしないとどうなる?

準確定申告を行わなかった場合は、期限を過ぎた場合などは、本来の税額に加えて2つのペナルティが加算されます。

4-1.ペナルティ①無申告加算税

無申告加算税は準確定申告期限内に申告を行わなかったことに対してのペナルティになります。

税務署から指摘される前に自主的に準確定申告を行った場合は、本来の納税額の5%が加算されます。

税務署から指摘があり申告を行った場合は、税務調査が行われる前か税務調査が行われた後かによって税率が異なります。

4-2.ペナルティ②延滞税

延滞税は納税が遅れたことに対する利息のような性質のペナルティです。

準確定申告の納付期限の翌日から実際に納付を行った日までの日数に応じて計算されます。延滞税の税率は2か月までの分と2か月を超えた分の2段階で計算されます。

  • 2か月以内の期間の延滞税は年2.5%
  • 2か月を経過した日以後の延滞税は年8.8%

※延滞税率は令和3年1月1日から12月31日までのものになります。延滞税率は毎年異なります。国税庁のホームページ等で確認下さい。

5.準確定申告で間違えやすいポイント

5-1.医療費や生命保険料などは支払った日を確認しよう

準確定申告で医療費控除や生命保険料控除などの控除を受ける際は、医療費や生命保険料などを支払った日をチェックしましょう。

支払った日が亡くなった日以降であれば、控除を受けることができません。

5-2.消費税にも準確定申告があります

亡くなった方が事業等を行っており、消費税の課税事業者だった場合は所得税のほかに消費税についても1月1日から亡くなった日までの準確定申告が必要になります。

消費税の準確定申告についても所得税と同様に亡くなってから4か月以内が申告書の提出期限になります。

5-3.相続人代表が還付を受ける場合には委任状が必要

準確定申告は原則的に相続人全員で行います。そのため、相続人を代表して1人が還付を受ける場合には、他の相続人からの委任状を提出する必要があります。

また、還付金は相続財産になり、相続税の課税対象になりますので注意しましょう。

5-4.e-Taxで提出が可能

令和元年までの準確定申告書の提出はe-Taxで行うことはできませんでしたが、令和2年より青色申告特別控除の改正に合わせてe-Taxによる提出が可能になりました。

これにより、準確定申告においても65万円の青色申告特別控除を受けることができます。ただし、委任状についてはe-Taxが対応しておらず、紙での提出になります。

5-5.事業を引き継ぐ方は「青色申告承認申請書」の提出忘れに注意

相続により事業を引き継ぐ相続人がいる場合は、たとえ被相続人が青色申告により確定申告を行っていた場合であっても、新たに「青色申告承認申請書」の提出を行わなければ継承した事業所得を青色申告で行うことはできません。

被相続人が生前、青色申告を行っていた場合の青色申告承認申請書の提出期限は、相続開始を知った日(死亡の日)の時期に応じて、以下のように定められています。

  • ①被相続人が1月1日~8月31日に死亡・・・死亡の日から4か月以内
  • ②被相続人が9月1日~10月31日に死亡・・・その年の12月31日が期限
  • ③被相続人が11月1日~12月31日に死亡・・・翌年2月15日が期限

つまり、上記の②や③にあたる場合には、青色申告承認申請書の提出期限までの期間が非常に短くなっています。

提出期限を過ぎてしまうと、被相続人が亡くなった年の確定申告については白色申告で行うことになり、青色申告の恩恵を受けることができなくなるためご注意下さい。

また、被相続人が白色申告であった場合で相続人が青色申告を希望する場合は、業務を承継した日から2か月以内に青色申告承認申請書の提出が必要です。(1月16日以後に業務を承継した場合)

6.まとめ

今回は「準確定申告が必要な場合と提出期限」についてご紹介しました。

準確定申告は亡くなった方の所得の状況によって必要かどうかが異なります。まずは、前年に確定申告をしていたかどうか調べてみましょう。また、ケースによっては準確定申告を行う義務はありませんが、申告を行うことで所得税が還付される場合もあります。

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