コラム
公開日:2021/01/29
更新日:2021/02/22

相続税と配偶者控除の計算例・ポイント・注意点を徹底解説

相続で妻や夫などの配偶者が遺産を相続した場合、相続税が大きく軽減される「相続税の配偶者の税額軽減(以降、相続税の配偶者控除)」という制度があります。

この制度を利用することで、相続税の課税を回避することもできるため、相続税申告では最も重要な制度の1つとされています。

しかし、正しく理解しておかないと、反対に相続税の納税額が過大になってしまうケースもあります。

ここでは、知らなければ損する「相続税の配偶者控除」、またその注意点やデメリット等がないのかについてご紹介します。

1.相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは

相続税の配偶者控除とは、配偶者が相続する財産のうち1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のどちらか高い方が控除される制度です。

なお、法定相続分とは、民法で定められている相続の割合のことで、他の相続人との関係で次のように変化します。

相続人 配偶者の法定相続割合
配偶者と子供 2分の1
配偶者と直系尊属(父母)※子供いない場合 3分の2
配偶者と兄弟姉妹 ※子がいなく、父母もいない場合 4分の3

2.相続税の配偶者控除の具体的な計算式・例

それでは具体的に計算式・例を見ていきましょう。

事例1:配偶者が相続した財産が1億6,000万円以下

法定相続人:配偶者と子供2人
相続財産の総額:2億3,000万円
配偶者が相続した財産:1億3,000万円
子供2人が相続した財産:各5,000万円

①課税遺産総額を計算

まず相続財産から「基礎控除」を差し引き、課税遺産総額を算出します。

基礎控除の算定:3,000万円+(法定相続人3人×600万円)=4,800万円
課税遺産総額:相続財産2億3,000万円-基礎控除額4,800万円=1億8,200万円

②相続税の総額を計算

次に、各人の相続税額を算出し、それらを合計して相続税総額の計算を行います。

配偶者:1億8,200万円×法定相続分1/2=9,100万円
9,100万円×税率30%-控除額700万円=2,030万円

子供A・B:1億8,200万円×法定相続分1/4=4,550万円
4,550万円×税率20%-控除額200万円=710万円

相続税総額:2,030万円+710万円+710万円=3,450万円

相続税総額を実際に相続した割合で按分計算

次に、相続税総額を実際に相続した割合で按分計算します。計算式は「相続税の総額×(各相続人の課税価格/課税価格の合計額)」です。

配偶者の税額の計算:3,450万円×(1億3,000万円/2億3,000万円)=1,950万円
※配偶者が相続した財産1億3,000万円<1億6,000万円のため、配偶者には相続税がかかりません⇒0円

子A・B:3,450万円×(5,000万円/2億3,000万円)=750万円

この事例では、配偶者控除により1,950万円の相続税が軽減されたことが分かります。

事例2:配偶者が相続した財産が1億6,000万円超

次に、配偶者が相続した財産が1億6,000万円を超えている場合はどうなるか確認してみましょう。

法定相続人:配偶者と子2人
相続財産の総額:4億円
配偶者が相続した財産:2億8,000万円
子2人が相続した財産:各6,000万円

①課税遺産総額を計算

事例1と同様に、相続財産から基礎控除額を引いて、課税される遺産総額の算出をします。

相続財産4億円-基礎控除額4,800万円=3億5,200万円

②相続税の総額を計算

次に、相続税総額の計算をします。

配偶者:3億5,200万円×法定相続分1/2=1億7,600万円
1億7,600万円×税率40%-控除額1,700万円=5,340万円

子A・B:3億5,200万円×法定相続分1/4=8,800万円
8,800万円×税率30%-控除額700万円=1,940万円

相続税総額:5,340万円+1,940万円+1,940万円=9,220万円

相続税総額を実際に相続した割合で按分計算

配偶者が相続した財産のうち、法定相続分2億円(4億円×1/2)が配偶者控除になります。

配偶者控除:9,220万円×(2億円/4億円)=4,610万円

配偶者の税額の計算:9,220万円×(2億8,000万円/4億円)=6,454万円
6,454万円-4,610万円=1,844万円

子A・B:9,220万円×(6,000万円/4億円)=1,383万円

この事例では、配偶者控除で4,610万円の相続税が軽減されることになります。

3.相続税の配偶者控除の適用を受けるためには

事例で分かるとおり、相続税の配偶者控除が適用されると相続税を大きく軽減することができます。適用を受けるためには次の要件がありますので、必ず確認しましょう。

3-1.婚姻関係であること|婚姻期間の制限はなし

配偶者控除の適用を受けるためには「法律上の婚姻関係」でなければなりません。

法律上の配偶者のため、婚姻届けを提出している場合のみが対象になり、いわゆる内縁関係の配偶者は配偶者控除の適用を受けることができません。

婚姻期間による制限はありませんので、戸籍上の配偶者であれば婚姻期間が短くても配偶者控除の適用を受けることができます。

3-2.無申告はNG!申告書を税務署に提出すること

相続税申告書を期限内に税務署へ提出することが配偶者控除の要件となります。

特に誤解しがちなことは、配偶者控除を適用することで相続税額が0円になる場合でも、相続税申告が必要ですので注意しましょう。

【参考コラム】

相続税申告は自分でできるか?|メリットと注意点を解説

相続税と申告期限|期限を過ぎるとどうなる?延長はできないの?

3-3.遺産分割が完了していること

配偶者控除は、配偶者が相続した財産価額をもとに計算されるため、相続税の申告期限までに遺産分割を完了している必要があります。

どうしても遺産分割が間に合わない場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に申告書に添付し提出することにより対処することが可能です。

4.必要書類|配偶者控除の適用を受けるために

配偶者控除を受けるためには、法律上の配偶者かどうかを確認できる資料を税務署に提出しなければなりません。

具体的には、次の書類が必要です。

・相続税申告書
・被相続人の出生から亡くなるまでの履歴が分かる戸籍謄本
・遺言書または遺産分割協議書
・遺産分割協議書に押印してある相続人全員の印鑑証明

5.【ケース別】配偶者控除の注意点

相続税の配偶者控除は、相続税額に大きな影響を与えるため慎重に検討しなければなりません。ここでは、ケース別に配偶者控除の適用を受ける際の注意点をご紹介します。

5-1.遺産分割が間に合わない場合

相続人同士の話し合いが長引き、申告期限までに遺産分割が整わないことがあります。

遺産分割が完了していない場合は、仮に全ての遺産を「法定相続分で分割した場合」の相続税申告書を作成し、納税を行います。

この申告では配偶者控除を受けることはできません。

しかし、相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することで遺産分割が整った時に配偶者控除の適用を受けることができます。

その後、実際に相続税申告後3年以内に遺産分割が完了すると、初めに提出した相続税申告書を修正する「更正の請求」を行います。

そして、納め過ぎた相続税の還付を行うことになります。

5-2.申告期限が過ぎてしまった場合

相続税申告が申告期限を過ぎてしまった場合でも配偶者控除の適用を受けることは可能です。

ただし、期限後申告となるため無申告加算税や延滞税などのペナルティが課されます。

また、配偶者控除の適用には遺産分割が完了していることが要件となっています。

遺産分割が完了していない場合には、期限後申告であっても「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し提出しましょう。

5-3.新たな遺産が発見された場合

相続税申告後に新たな遺産が見つかった場合は「修正申告」を行うことで新たな遺産を含めたところで配偶者控除の計算が行われます。

ただし、税務調査などで税務署からの指摘を受けて修正申告を行う場合は、新たな遺産について配偶者控除の適用が受けられないおそれがあります。

6.配偶者控除にデメリットはある?二次相続の税額が高額になることも

相続税の配偶者控除の適用を受けることで、相続税の税額を大きく軽減することが可能です。

しかし、次の相続を意識して遺産分割を行い、配偶者控除の適用を受けなければ配偶者控除を利用したばかりに二次相続での相続税額が高額になるデメリットが発生する可能性があります。

6-1.二次相続が高額になる原因

不用意に配偶者控除を利用してしまい、二次相続の税額が高額になってしまう要因は、次のことが考えられます。

①相続財産が過大になる

一組の夫妻に配偶者控除が利用できるのは1回限りです。初めに夫が亡くなり(一次相続)、配偶者控除を利用し配偶者が多額の遺産を相続すると、その配偶者が亡くなった時に相続(二次相続)の相続財産が過大になります。

二次相続では配偶者控除が利用できないので、残された相続人が多額の相続税を納税しなければならないケースがあります。

②二次相続は基礎控除額が減る

二次相続は、一次相続と比べ基礎控除額が減ります。少なくとも法定相続人が1人少なくなるため基礎控除額や死亡保険金の非課税枠、死亡退職金の非課税枠が減るため二次相続が一次相続に比べて相続税額が高額になるケースがあります。

6-2.二次相続を考慮した遺産分割を考えよう

配偶者控除を利用する場合には、以上のようなデメリットを想定して、二次相続にかかる相続税までシミュレーションして配偶者が相続する財産を考える必要があります。

1億6,000万円または配偶者の法定相続分まで相続税がかからないからと言って、遺産の大部分を配偶者に相続させてしまうと二次相続での相続税の負担が高額になってしまう可能性があります。

相続シミュレーションは生前対策を行う上でもとても重要ですが、専門家でなければ正確な判断をすることができません。配偶者控除の適用や生前対策を考えられている方は、一度専門家に相談し現状把握を行い相続シミュレーションしてみてはいかがでしょうか。

7. まとめ:茨城県・つくば市の生前贈与・相続税対策は鯨井会計グループへ

今回は「相続税と配偶者控除の計算例・ポイント・注意点」をご紹介しました。

相続税について不安に思うことや、自分で申告することが難しいと感じた時は、なるべく早く税理士に相談されることをおすすめします。

なお当事務所「鯨井会計」では、茨城県つくば市を中心として、相続対策の立案・実行支援サービスを実施しております。

相続税に関するセミナーも頻繁に行い、相続税に関するご依頼も数多くお受けしております。

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