コラム
公開日:2025/06/17
更新日:2025/06/17
兄弟や甥姪のみが相続人になった場合|相続税の基礎控除の計算方法

亡くなった被相続人の財産を相続する「法定相続人」には、法律で定められている順位があり、被相続人に配偶者や子ども、親がいなければ兄弟姉妹のみが法定相続人になります。
兄弟姉妹が既に亡くなっていれば、兄弟姉妹の子どもである甥や姪が法定相続人になり、比較的交流が少ない親族であるため、トラブルが生じることもあります。
ここでは「兄弟姉妹や甥姪のみが相続人になった場合の相続分や注意点、生前からできる対策」について詳しく解説します。
1.兄弟姉妹や甥姪の法定相続分の割合
民法では、法定相続人の順位が定められており、配偶者は常に法定相続人となり、子ども(直系卑属)が第1順位、両親・祖父母(直系尊属)が第2順位、兄弟姉妹が第3順位となります。
法定相続人の受ける相続財産の割合(法定相続分)についても民法で定められています。法定相続人の順位と法定相続分は次の表をご覧ください。
【配偶者がいる場合】
法定相続人の順位 | 法定相続人と法定相続分 | |
子どもがいる場合
(第1順位) |
配偶者1/2 | 子ども:1/2を人数でわける
|
子どもがおらず、父母(祖父母)がいる場合
(第2順位) |
配偶者2/3 | 父母等:1/3を人数でわける |
子どもと父母等がおらず、兄弟姉妹がいる場合
※異父兄弟姉妹・異母兄弟姉妹を含む (第3順位) |
配偶者3/4 | 兄弟姉妹1/4を人数でわける
※異父兄弟姉妹・異母兄弟姉妹は全血兄弟姉妹の1/2 |
【配偶者がいない場合】
法定相続人の順位 | 法定相続人と法定相続分 |
子どもがいる場合
(第1順位) |
子どもが人数でわける
|
子どもがおらず、父母(祖父母)がいる場合
(第2順位) |
父母等が人数でわける |
子どもと父母等がおらず、兄弟姉妹がいる場合
※異父兄弟姉妹・異母兄弟姉妹を含む (第3順位) |
兄弟姉妹が人数でわける
※異父兄弟姉妹・異母兄弟姉妹は全血兄弟姉妹の1/2 |
上記の表には「甥・姪」が含まれていませんが、第3順位の兄弟姉妹が相続人になる場合で兄弟姉妹が既に亡くなっており、兄弟姉妹に子ども(被相続人から見て甥・姪)がいれば、甥・姪が代襲して相続人になります。
ただし、兄弟姉妹が亡くなっており、代襲相続人となる甥・姪も既に亡くなっている場合には甥・姪に子どもがいたとしても、その子どもは代襲相続人になることはできません。兄弟姉妹の代襲相続は1代限りです。
1-1.異母兄弟に相続権は存在する
父親や母親が異なる兄弟姉妹、いわゆる「異父兄弟姉妹・異母兄弟姉妹」にも法定相続人として相続権は存在します。異父兄弟姉妹・異母兄弟姉妹が法定相続人になり得るケースは次の2つです。
親の相続
親が亡くなっており、異父兄弟姉妹・異母兄弟姉妹が第1順位の法定相続人として財産を相続する場合
兄弟姉妹の相続
亡くなった被相続人に子どもや両親がおらず、第3順位である兄弟姉妹が法定相続人となるケースでは、異父兄弟姉妹・異母兄弟姉妹も相続人に含まれます。異父兄弟姉妹・異母兄弟姉妹が既に亡くなっている場合には、その子どもが代襲相続人になり、通常の兄弟姉妹の代襲相続と同様に1代限りのものになります。
この場合には、異父兄弟姉妹・異母兄弟姉妹の法定相続分は、父母が同じ兄弟姉妹の1/2になります。
2.兄弟姉妹・甥姪の相続税の基礎控除の計算方法
亡くなった被相続人から財産を相続する際には、財産額に応じて相続税が発生します。相続税は全てのケースで生じるものではなく、遺産総額が「基礎控除」を超えた場合にのみ申告と納税が必要になります。この「基礎控除」は次の算式により計算します。
【相続税の基礎控除】
3,000万円+600万円×法定相続人の数
基礎控除を求める際の法定相続人の数は、「遺産を相続する権利がある人の数」のことを指します。法定相続人が兄弟姉妹、甥・姪(代襲相続人)、異父兄弟姉妹・異母兄弟姉妹であっても、法定相続人の数に含めて基礎控除の計算を行います。
3.兄弟姉妹や甥・姪が相続人となる場合の注意点
兄弟姉妹や甥・姪が法定相続人になる場合、子どもや父母が法定相続人となる場合と異なる部分があるため注意が必要です。
3-1.兄弟姉妹や甥・姪には遺留分がない
民法には、法定相続人が最低限の財産を取得する権利である「遺留分」が定められており、遺留分を主張することで必ず一定の財産を取得することができます。しかし、法定相続人が兄弟姉妹や甥・姪の場合には、この遺留分がありません。
例えば、法定相続人が配偶者と兄弟姉妹であった場合に、被相続人の遺言書に「全ての財産を妻に相続させる」とあれば、兄弟姉妹は財産を一切相続することはできません。
3-2.相続税の2割加算の対象になる
相続税の計算では、相続人が亡くなった被相続人の一親等の血族及び配偶者以外である場合に相続税額が2割加算されます(代襲相続人となる孫を除く)。
兄弟姉妹や甥・姪は一親等の血族に該当しないため、相続税の2割加算の対象になり、相続税の負担が大きくなります。兄弟姉妹や甥・姪が2割加算の対象になる理由は、相続財産を受け取ることは偶然性が高いことであり、相続税の負担の均衡を図る目的があると言われています。
3-3.甥姪に子がいても代襲相続はない
被相続人の子どもが既に亡くなっている場合で孫がいる場合には、孫が亡くなった子どもの代襲相続人になります。また、子どもも孫も亡くなっており曾孫がいる場合には曾孫が代襲相続になり、二代、三代にわたり代襲が続きます。
一方で、兄弟姉妹が相続人となる場合に既に兄弟姉妹が既に亡くなっていれば、甥・姪が代襲相続人となりますが、子どもの代襲相続とは異なり1代限りのものです。つまり、甥・姪が法定相続人になるケースで甥・姪が亡くなっているケースでは甥・姪の子どもが代襲することはありません。
3-4.戸籍の調査が大変
相続手続きでは、被相続人と相続人の関係性を調べるために戸籍の調査を行います。相続人が兄弟姉妹の場合は、被相続人の戸籍だけでなく、兄弟関係を確定させるために被相続人の両親の戸籍も調べる必要があります。
甥・姪が相続人になる場合は甥・姪の親(被相続人から見ると兄弟姉妹)の戸籍も調べなければならないため、非常に手間のかかる調査になります。
4.生前にできる対策
兄弟姉妹や甥・姪が相続人になる場合は、相続手続きに関する負担をかけてしまったり、財産の分割でトラブルが生じてしまったりするおそれがあります。一般的に被相続人と兄弟姉妹や甥・姪との関係性が近くはないため、生前からの対策が重要です。生前にできる対策には、次のようなものがあります。
4-1.生前贈与などの節税対策により相続税額の負担を減らす
相続財産が多い場合には、高額な相続税を兄弟姉妹や甥・姪が負担しなければなりません。生前から生前贈与の活用や資産の組み換えなどの節税対策を行い、相続税の負担を軽減できるようにしておきましょう。
4-2.遺言書・財産目録を作成しておく
生前にしっかりと相続財産を調査して財産目録を作成し、誰に何を相続させるのかを決めておくことで相続手続きの負担の軽減や財産争いの回避を行うことができます。ご自身の意思を伝えるためにも、遺言書を作成するようにしましょう。
4-3.死後事務委任契約を依頼する
亡くなった後の行政手続きや相続関係の手続き、遺品整理などを相続に詳しい弁護士や司法書士、税理士などの専門家に任せる「死後事務委任契約」を行うことで、兄弟姉妹や甥・姪の負担を軽減させることができます。専門家に依頼するためコストがかかってしまいますが、相続人に負担をかけたくない場合には有効な方法です。
まとめ
兄弟姉妹や甥・姪が相続人となる場合には、子どもや親よりも遠い関係性であるためトラブルが生じるケースも珍しくはありません。相続トラブルを回避し、問題なく相続手続きを終わらせるには遺言書の作成など、生前からの対策が重要です。
「どんな対策が有効なのか」「どのような方向性で対策を行えばいいのか」悩んだ際は、相続に強い税理士に相談しましょう。きっと生前対策の方向性が見えてくるはずです。
また、相続税や贈与税などについても、法律の専門家にご相談ください。当事務所でも、税理士・弁護士・社労士・司法書士・不動産鑑定士・FP等と連携し、一つの窓口で相続に関する全てをサポートさせて頂いております。お気軽にご相談ください。