コラム
公開日:2025/06/17
更新日:2025/06/17

相続税と法人化|メリット・デメリット・法人の相続税はかからない?

相続税と法人化|メリット・デメリット・法人の相続税はかからない?

相続税は、原則として「個人」が所有する財産が引き継がれた際に課税される税金であり、法人が所有する財産には相続税が課税されることはありません。そのため、個人で営んでいる事業を法人化し、事業に関する個人の財産を法人に移転してしまえば個人の財産を減らすことができ、相続税を大きく減らすことが可能です。

ここでは「相続税対策を目的とした法人化のメリット・デメリット」について詳しく解説します。法人化することにより、資産の分配や財産評価額の減少などのメリットがあるとともに、法人の運用コストなどのデメリットもありますので、法人化を利用した相続税の節税を考えている方は、ぜひ最後までお付き合いください。

1.法人化には相続税がからない

法人とは、法律のもとで人と同じ権利や義務を持つ組織や団体のことを言い、法人と個人は同一ではありません。つまり、個人事業主が法人成りし、事業に関する土地や建物などの資産を個人から法人へ移転させてしまえば、その財産そのものについては相続税が課税されません。個人の財産を法人に移転させるため、個人の財産が減り、相続税の節税にも繋がります。

1-1.法人へ財産を移転する場合には「譲渡所得」が発生する

法人成りし、個人の財産を法人に移転させる一般的な方法は「売買契約」によるものです。売買契約による移転は、売り主である個人と買い主である法人の間で売買契約書を交わすだけでよいため、比較的簡単に行うことができます。

売買金額については「時価」での売却が原則となります。時価よりも低い金額で譲渡してしまうと時価と譲受価額との差額について受贈益として法人税が課税されます。

また、売り主については売却価額とその財産の取得価額の差額である売却益に「譲渡所得」が課税されます。もし、無償または著しく低い価額で財産を譲渡した場合、時価で譲渡したものとみなして所得税が課税(みなし譲渡)されるため、時価の算定には十分な注意が必要です。

2.相続税対策を目的として法人化するメリット・デメリット

相続税対策を目的とした個人事業の法人化は「資産の分配」という観点では、非常に有効な方法です。相続税対策を目的として法人化するメリット・デメリットを見ていきましょう。

2-1.メリット

2-1-1.財産の分配ができる

個人が保有する財産は相続税の対象になりますが、法人化により個人から法人へ財産の移転が行われると、個人の財産が減少し、相続税の節税が可能です。ただし、法人へは時価による移転となるため、譲渡所得税の発生や対価としての現金の受け取りがあります。前もって譲渡所得税の試算や対価として受け取る現金の相続税対策を考えておきましょう。

2-1-2.利益の分配ができる

財産を保有している本人を法人の株主にせずに、相続人を株主にすることで法人の株式が相続財産とならず、法人が得た利益は相続人が保有する株式の価格に反映されることになります。つまり、個人事業の場合の利益は個人の財産になっていたものが、法人化により相続人の財産に移転することが可能です。

2-1-3.役員報酬の支払いで所得の分散

家族が法人の役員に就任することで、家族に役員報酬を支払うことができ、適切な金額の役員報酬は法人の経費(損金)となり、法人税の節税にも繋がります。また、役員報酬は給与所得になるため、給与所得控除を受けることができます。

2-1-4.法人化することで所得税から法人税へ変わる

個人事業を法人化すると、利益に課税される税金の種類が所得税から法人税へ変わります。所得税は利益が多ければ多いほど所得税率が上がる累進課税になっていますが、法人税は所得税よりも税率の累進が緩く設定されており、法人化することで利益にかかる税金を抑えられる可能性があります。

2-1-5.経費の対象が拡大する

個人事業から法人化すると経費にできる項目が大幅に広がります。個人事業主では経費にならなかったものを経費にできるようになり、大きな節税効果を期待することが可能です。法人化により経費にできるようになる主な項目は次のとおりです。

・住居費

・出張手当

・車両関連費

・生命保険

・退職金

2-1-6.繰越欠損金の控除期間が長い

事業が赤字の場合、その赤字を次の事業年度に繰越し、利益から相殺する「繰越欠損金」という制度があります。個人事業主で青色申告の場合は最大で3年間しか繰り越しできませんが、法人の場合は最大で10年間繰り越し可能です。

2-1-7.会社オーナーが社会保険に加入できる

個人事業主が法人化すると、原則として社会保険に加入することが義務付けられています。社会保険に加入することで、健康保険+国民年金に加入する個人事業主よりも手厚い補償を受けることが可能です。また、社会保険料の金額は役員報酬に応じて決まるため、役員報酬の設定次第では社会保険料を抑えることも可能です。

2-2.デメリット

2-2-1.設立コスト・財産移転コスト・会社維持コストが発生する

法人化するためには設立費用が必要です。法人形態により費用は異なりますが10万円から25万円ほどかかります。また、個人から法人へ財産を移転すると個人への譲渡所得税の課税のほか、不動産を移転する場合には法人に不動産取得税や登録免許税が課税されます。

法人化した後についても、決算にかかる税理士費用や赤字でも支払わなければならない年間約7万円の法人住民税などの会社維持コストが発生します。

2-2-2.会計処理が複雑

法人化すると、個人事業主の時よりも会計処理が複雑化し、事務作業に割く時間が増加するデメリットがあります。特に法人税申告書は、所得税の確定申告書と比べて複雑に作られているため、税理士への依頼が必要になるでしょう。

2-2-3.小規模宅地等の特例が利用できない

相続税には、宅地の評価額を最大で80%減額できる「小規模宅地等の特例」という制度があります。個人の財産である宅地を法人に移転した場合、その宅地は法人の所有物になるため、相続において「小規模宅地等の特例」をその宅地で利用することができません。

3.相続税対策に法人を設立する際のポイント

3-1.節税効果はすべてのケースで異なる

法人化による相続税対策は非常に複雑なスキームです。「財産規模はどれくらいか」「事業による利益はどれくらいあるのか」「他の相続税対策との兼ね合いはどうなっているのか」など、総合的に判断を行わなければ、法人化したことで不利になってしまうケースも考えられます。思いつきで行動するのはなく、出口戦略まで検討するようにしましょう。

3-2.相続税対策は早めに取り組む

法人化も含め、相続税対策は取り組むのに早すぎるといったことはありません。「対策はまだ早いのではないか」と考え、後回しにしてしまうと何も対策ができないまま相続が発生してしまうおそれがあります。相続税対策はなるべく早めから取り組むようにしましょう。

3-3.相続に強い税理士に相談する

相続税は専門性の高い分野であり、全ての税理士が対応できる分野ではありません。また、法人化を利用したスキームでは、法人に関する知識や財産の時価算定の知識も必要になります。法人化による相続税対策を検討されている場合は、相続と法人の税務に強い税理士に相談することをお勧めします。

4. まとめ

法人化による相続税対策は、相続税の節税の他にも所得税の節税や家族への財産分配などができる非常にメリットのある方法です。一方で、法人化の手間や費用、維持コストなどが発生するデメリットもあるため、よく理解したうえで進めましょう。

また、相続税と贈与税などについても、法律の専門家にご相談ください。当事務所でも、税理士・弁護士・社労士・司法書士・不動産鑑定士・FP等と連携し、一つの窓口で相続に関する全てをサポートさせて頂いております。お気軽にご相談ください。