コラム
公開日:2025/06/17
更新日:2025/06/17
美術品・骨董品は相続税対策になる?評価は?いくら?

ご自宅に美術品や骨董品が飾られている場合「これは相続税がかかるのだろうか?」と疑問を抱く方もいらっしゃるのではないでしょうか。美術品や骨董品の世界では、作品の価値が時代と共に移り変わり、詳しくない方からすると「どれくらいの価値があるのか全く想像もつかない」といったこともあるでしょう。また「美術品や骨董品に相続税がかかるなら、相続人に生前贈与しておきたい」と考える方もいらっしゃると思います。
ここでは「美術品や骨董品の相続税評価額の算出方法と相続税対策」について解説します。美術品や骨董品の評価は高額になることもあり、対策を疎かにすると相続税の負担が大きなものになってしまうことがあります。財産に美術品や骨董品がある方は、ぜひ最後までお付き合いください。
目次
1.美術品・骨董品は相続税の課税対象?どうやって評価するの?
はじめに、相続税の決まりでは「経済的価値の高い美術品や骨董品は相続税の課税対象」になります。一般的に美術品・骨董品の価値は分かりにくいこともあり、相続財産に含めずに申告を行うケースも少なくありません。
しかし、税務署は相続税のプロです。百貨店や美術品店などの名簿を職権により調査して把握することもありますし、税務調査時に実際に目で見て把握することもあり、適切に申告していなければ厳しいペナルティが課されることもあります。「わからないから大丈夫」と考えずに、適正な評価額で申告を行いましょう。
1-1.美術品・骨董品の相続税評価の方法
美術品・骨董品の相続税評価の方法には「実売実例価格」と「精通者意見価格」の2つの方法があります。
なお、1点が5万円以下のものについては家財扱いとなり「家財一式」として相続税の申告をすることが可能です。例えば、家具家電と5万円以下の美術品を一括して「家具一式30万円」などとまとめて申告することができます。
1-1-1.①実売実例価格
一部の美術品や骨董品は、同様のものが市場で売買取引されている場合があります。その場合は、市場で取引されている価格を相続税評価額とする「実売実例価格」で評価することができます。
ただし、美術品や骨董品の状態が悪い場合や市場取引が極めて少なく、取引時から時価が大きく変動している場合には、実売実例価格を使って評価することは難しいでしょう。また、美術品や骨董品は一点物が多いため、実売実例価格が利用できる場面は多くないでしょう。
1-1-2.②精通者意見価格
美術品や骨董品の相続税評価では、その分野に詳しい古美術商や鑑定士などに鑑定してもらう方法である「精通者意見価格」も認められています。市場に流通していない高価な美術品や骨董品の場合に適している方法であり、実務上、広く利用されている方法です。
専門家に査定してもらうためには鑑定料が必要になりますが、鑑定額を証明する鑑定評価書を入手することができ、相続税評価額を算定した適切な証拠として提出することが可能です。
1-2.特定の美術品には納税猶予制度が利用できる
文化財に指定されているような美術品の中には、個人で所有されているものも多くあります。税制では、文化的な価値がある美術品の海外への流出を回避するために「特定の美術品に係る相続税の納税猶予」が平成30年の税制改正で創設されました。
「亡くなった人が美術品を一定の美術館などに寄託し、文化財保護法に基づく保存活用計画の認定を受けていた」などの要件を満たすことで、相続税額の80%までを猶予することができます。
2.美術品・骨董品を相続させるメリット・デメリット
美術品や骨董品が相続税の対象になると聞いて「相続が発生する前に売却した方がいいのではないか」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。この判断はケースバイケースであって、相続財産の総額や美術品・骨董品のこれからの価値の上昇予測によっても異なります。美術品・骨董品を相続人に相続させるメリットとデメリットについて見ていきましょう。
2-1.美術品・骨董品を相続させるメリット
2-1-1.基礎控除の範囲内であれば相続税はかからない
相続税は、全ての相続に課税されるものではなく、相続財産の総額が「基礎控除」を超えた場合に課税されます。相続財産に美術品や骨董品がある場合でも、他の財産と合算して基礎控除を下回っていれば相続税はかかりません。
また、美術品・骨董品の評価額は相続発生時の評価額であり、これから価値の上昇が見込まれている場合であればメリットになります。
【基礎控除】
3,000万円+(600万円×相続人の人数)
2-2.美術品・骨董品を相続させるデメリット
2-2-1.基礎控除を上回ると相続税がかかる
美術品や骨董品を含め、相続財産の合計が基礎控除を超えていれば相続税の負担が生じます。大昔に購入したもので現在の価値は当時の価値の数倍になっているようなものであれば、多額の相続税が発生し、納税資金が足りなくなり、納税のために美術品や骨董品を手放さなければならない状況になる場合もありますので注意しましょう。
2-2-2.遺産分割でもめる可能性がある
遺産である美術品や骨董品の鑑定を行ったところ、評価額が高額だった場合は、遺産トラブルに発展する可能性があります。誰が相続するのかが話し合いでは決まらず、最悪の場合、裁判になってしまうことも考えられます。
3.美術品・骨董品を上手に生前贈与するメリット・デメリット
美術品や骨董品の相続は生前から起こりえるリスクを予測することで、対策を行うことができます。特に美術品・骨董品を上手に生前贈与することが重要です。美術品・骨董品を生前贈与するメリットとデメリットを見ていきましょう。
3-1.美術品・骨董品を生前贈与するメリット
3-1-1.価値が上がるものを贈与することで節税対策になる
どんどん価値が上がっており、これからも上がり続けると考えられる美術品や骨董品がある場合には、早めに生前贈与を行うことで税負担を抑えることが可能です。生前贈与を行うと贈与を行った日の時価により贈与税が課税になります。そのため、値上がりする前に贈与を行った方が、値上がり後の相続税の負担よりも軽くなる場合があります。また、生前贈与では年110万円の基礎控除があり、上手に利用することで節税に繋がります。
3-1-2.希望の相手に確実に渡せる
相続では、遺言書がない場合には相続人全員での遺産分割協議により、誰が何を相続するのかを話し合うため亡くなった人の意思が反映されません。遺言書がある場合でも、相続人全員の決定により、遺言書通りではない遺産分割を行うことができるため、確実に希望の相手に美術品・骨董品を渡せるとは限りません。その点、生前贈与であれば、確実に希望の相手に美術品・骨董品を渡すことができます。
3-2.美術品・骨董品を生前贈与するデメリット
3-2-1.生前贈与加算がある
相続開始前の一定期間内に、暦年課税による生前贈与がある場合には、生前贈与財産を相続財産に加算して、相続税を計算することになり、生前贈与が節税対策にならない場合もあります。贈与税の基礎控除部分についての節税効果はなくなりますが、生前贈与加算される金額は贈与時の評価額になるため、価値の上昇分についての節税効果は期待できます。
なお、税制改正により「生前贈与加算の期間」が3年から7年に延長されています。
4.相続における美術品・骨董品がある場合の注意点
相続における美術品・骨董品がある場合には、必ず相続財産に含めて申告を行い、漏れがないようにしましょう。申告漏れがあった場合は、過少申告加算税が課され、悪質な場合は重加算税が課されるおそれがあります。
また、精通者意見価格により評価を行う場合には鑑定料がかかる場合がありますが、鑑定料を惜しまずに依頼し、税務署に疑われない適切な申告を行うようにしましょう。
5.まとめ
相続財産に美術品や骨董品がある場合には、いくらぐらいの評価額になるのかを早めに調べることが重要です。評価額が高いものである場合には、生前贈与などの対策も可能ですし、特定の美術品であれば納税猶予制度を利用することもできます。生前贈与を行う場合や納税猶予制度を利用する場合には、相続に関する専門知識が必要です。
また、相続税と贈与税などについても、法律の専門家にご相談ください。当事務所でも、税理士・弁護士・社労士・司法書士・不動産鑑定士・FP等と連携し、一つの窓口で相続に関する全てをサポートさせて頂いております。お気軽にご相談ください。